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こだわり

丸秀醤油は明治34年の創業以来、100年以上にわたって伝統の天然醸造で醤油・味噌作りをおこなってまいりました。1970年代から80年代にかけて、全国の多くの醤油蔵が自社での醤油醸造をやめて協業化により効率化を図った製法に 変わっていく中、当社は一貫して伝統的な天然醸造による醤油醸造を続け、今では佐賀県内唯一の天然醸造醤油蔵となりました。

使っている大豆や小麦は、畑にまけば芽が出ます。

多くの醤油メーカーでは、搾油した後の脱脂加工大豆を使うところを、丸秀醤油では丸のままの生の大豆を使っています。 脱脂大豆に比べると値段は高いですが、うまみとコク、そしてなんといってもまろやかさが違います。 一口に丸大豆醤油と言っても、畑にまけば芽が出るような生の大豆をそのまま使っているものは少なく、 蒸しやすくするために処理された生命力のない大豆を使った醤油が、市場の大半を占めています。 丸秀醤油の大豆は、ちゃんと生きている丸大豆です。

麹菌の生育の良し悪しに、一番大きく影響するのが大豆の蒸し加減です。 蒸煮釜に蒸気を吹き込み、しばらく経って釜から出てくる蒸気の色が、透明から白に、そして紫色に色づき始めた瞬間が蒸しの始まりです。 (実際は蒸気の色は白いのですが、私たちには紫色に感じる瞬間があるのです。)

そして、蒸気が栗の香りに変わったときが蒸しの終了です。 職人たちは、大豆の育った環境や、収穫してからの日数、作業当日の温度や湿度によって、蒸し時間を変えています。 画一的な機械まかせではなく、麹菌が一番よろこんでくれる蒸し上がりを目指し、五感を使って最高の状態を目指します。

小麦は、地元佐賀平野で、特にタンパク質の具合いがいい山のふもとで作られているものを選んでいます。 大豆と小麦を同じ量で仕込むのが伝統的な製法で仕込んでいます。 窒素分を増やすために大豆の比率を増やしている醤油メーカーもありますが、甘みとコクのもとになる小麦をたっぷり使う伝統製法を、当社は今も守っています。

小麦は、昔から使っているレンガ造りの焙煎釜で、今も直火で炒っています。 ここでも、何度も何度も小麦の状態を確認しながら、火加減に注意しながら丁寧に炒っていきます。 小麦の炒り方ひとつで、香りや甘みが左右されてしまいますので、上手に炒り上げるために火加減の調節に細心の注意を払います。 炒りすぎてしまうと、焦げて炭化してしまい、炒り方が少しでも不足すると、もろみになってから酸味が出てきてしまいます。

醤油は微生物の力で作られるもの。人間の都合で時間を決めることはできません。

蒸した大豆、炒った小麦を砕いたもの、それに種麹を混ぜて麹菌を繁殖させていく作業を、製麹(せいきく)といいます。 3日~4日かけて、温度や湿度、空気量を調節できる密閉した室の中で麹菌を育てていきます。

昔はこの部屋のことを室(むろ)と呼んでいました。 微妙に変化する香りや菌糸の伸びぐあい、繁殖するときに出す発熱の力強さなどを注意深く観察しながら、温度や湿度、風量をコントロールします。 麹菌が窒息してしまわないように、タイミングを見て手入れをおこない、熱を逃がしてやったり、菌糸をほぐして変え通しをよくしてやったりします。

このときの心理状態は、子育てのような気持ちになります。 小さな変化を見落とさない観察力と、愛情と、長年積み重ねた麹づくりの勘が必要です。

満足に育ってくれた麹は、緑色が深く、びっしりと厚く麹菌が原料のまわりに張り付いていて、ビロードのような光沢を放っています。 当社の麹は全国でもトップクラスの麹に仕上がっていると自負しています。 麹づくりは、子どもの成長に目を細めるまなざしのように、ただただ麹菌が伸び伸びと育っていくのを願いながらの作業です。

夏を2回経験させるのは、自然の力で発酵させるため。人間はその環境を準備するだけです。

海の塩を天日で乾かして作られた、ミネラルたっぷりの自然塩を溶かし込んだ仕込水に、自慢の麹を仕込みます。 醤油の味わいに欠かせない塩味ですが、製造過程でも塩分があることで、もろみを雑菌から守って豊かな香りの醤油が作られていきます。

多くの醤油メーカーでは、人工的に温度を調節して短時間の熟成で終わらせているところがほとんどですが、当社ではやっぱり自然のままが一番と、微生物が繁殖しやすい夏を2回経験させる伝統的な方法でおこなっています。

また、ほとんどのメーカーでは乳酸菌や酵母を添加して、発酵をおこないますが、当社はこのような菌の添加もおこなわず、すべて蔵の壁や天井に住みついた微生物だけで発酵させて作ります。 発酵初期の段階では、蔵に存在している乳酸菌が自然にもろみに飛び込んできて増殖を始め、次に活躍する酵母が暮らしやすい環境を作ってくれます。

住みやすい環境が整うと、どこからともなく天然の酵母が住みついて、本格的な発酵が始まります。
それぞれのもろみの状態を見ながら、ときどき空気を送り込んだり、撹拌してやったりしながら、気長に熟成を待ちます。
もろみの中では、麹菌が蓄えた酵素の力によって、小麦のデンプンがぶどう糖に分解され、甘みへと変わり、大豆のたんぱく質がアミノ酸に分解され、うまみへと変化していきます。

これらの分解物に、多くの微生物がかかわりあいながら、複雑な味や300種類以上の香りの成分が作り出されていきます。
もろみに耳を傾けると、プツプツという呼吸している音が聞こえてきて、自然の生命の力強さを感じることができます。

醤油づくりというのは、微生物が主役です。私たちにできるのは、麹菌や乳酸菌や酵母たちが、伸び伸びと生活できる環境を準備してあげることだけなんです。

生きた原料を使って、自然の力で発酵させたものを、最高の状態で。

2年間の熟成を終えたもろみは、少しずつ布に包み、一枚一枚ていねいに折りたたんで積み重ねていきます。
包み終わったもろみは、一晩おいて醤油そのものの重みだけで絞ったあと、圧搾機にかけて完全に絞り切ります。

こうやって、一滴一滴、布で漉されて、生揚(きあげ)と呼ばれる生醤油が染み出てきます。

このままでは、まだ醤油の中に菌が生きている状態ですので、火入れと呼ばれる加熱殺菌をおこないます。 このとき、温度を上げすぎると風味や香りがとんでしまいますので、90℃で火入れします。

多くの九州の醤油は、ここで化学調味料や甘味料、着色料などで味や色を調整するのですが、当社では化学調味料や合成着色料などの添加物は加えずに味を調えます。 生きた原料を使って、自然の力で発酵させているから、作るたびに味が微妙に違うのは仕方がないと思います。 でもここで添加物に頼るのではなく、当社ではいくつかのタンクの醤油をブレンドして平均的な味にする工夫をしています。

本物の醤油は、天然醸造でしか作れない。

戦後、自然発酵させないで化学的な処理でうまみを作り出すアミノ酸醤油がもてはやされたり、 短期間でもろみを発酵させる温醸方式が主流になったり、醤油屋が共同で生揚を作るようになったりと、大量販売の時代を迎えた醤油の世界は大きく変わっていきました。

たくさん作ってどんどん売るという、生産効率だけが重視される時代の中、当社も、その流れに乗らないと生き残っていけないんじゃないかと悩みました。 しかし、やっぱり自分たちの手で諸味を作りたい。私たちは本物の醤油を作り続けようと、昔ながらの製法を守ることにしたんです。

なかなか売れない時代もありました。 しかし、そんなときでも、どうしても丸秀の醤油でなきゃと言ってくれるお客様たちがいてくださったから、この製法を守り続けることを決意しました。

世界の調味料の頂点ともいえるこの日本の醤油が、科学的な製法に替わり、内在している偉大なる価値とともに惜しげもなくこの世の中から捨て去られようとしています。 丸秀醤油はこれからも、急がず、無理をせず、永く独自の味わいを育て、このすばらしい日本伝統の醤油を次の世代へと引き継いでいきたいと思っています。